今や定番化した「ラグスポ」を再研究!?腕時計を語る上で知っておきたい2種類のラグスポの現在地と持つべき魅力的なモデル4選。

皆さまこんにちは。
いつもoomiya京都店のブログをご覧いただき誠にありがとうございます。

さて「ラグスポブーム」も時計の定番化を迎えました。
それに伴い「ラグスポ」の定義や革新性が失われ始めている気がします。
今一度「ラグスポ」の奥深さとどうしてこんなにも早く世間に受け入れられたのか。
ぜひ一緒に再研究していきましょう。

そもそもラグスポの定義とは?

ラグジュアリースポーツウォッチ、通称「ラグスポ」。

その始祖とされるのが、1972年にオーデマ・ピゲが発表した「ロイヤルオーク」です。開発の依頼内容は、「全く新しいステンレス製の腕時計を創造すること」。当時、高級時計といえばゴールドなどの貴金属が主流であり、高級メゾンのステンレススチールを採用した高級時計は極めて革新的な試みでした。

なお、「ラグジュアリースポーツウォッチ(ラグスポ)」という言葉は、発表当時に存在していたわけではなく、後にこのスタイルを表現するために生まれた呼称です。そのため、ラグスポには現在でも明確な定義が存在していないのが実情です。

「ロイヤルオーク」が誕生した1972年は、1969年に端を発するクオーツショックの真っただ中でした。安価で高精度なクオーツ式時計の登場により、機械式時計は存続の危機に直面していました。そのような時代背景の中で登場したこのモデルは、機械式時計の価値を再定義し、復権を目指した起死回生の一手だったのです。

結果として、この挑戦が成功であったかどうかは議論の余地がありますが、「ロイヤルオーク」が時計業界に与えた影響は計り知れず、現在のラグスポというジャンルの礎を築いたことは間違いありません。

勘違いしやすい2種類のラグスポ?

ラグジュアリースポーツウォッチ、通称「ラグスポ」。
その魅力は“ラグジュアリー”と“スポーツ”という相反する要素が融合している点にありますが、実はこの2つの要素のどちらを重視しているかによって、大きく分類することができます。

では、ラグスポを2つに分類するとしたら、皆さまはどのように仕分けされるでしょうか?
意外と難しい問題かもしれません。

今回は、代表的な5つのモデルを例に考えてみましょう。

  1. ロレアート(ジラール・ペルゴ)
  2. インヂュニア(IWC)
  3. クロノマット(ブライトリング)
  4. ロイヤルオーク(オーデマ・ピゲ)
  5. デファイ スカイライン(ゼニス)

今回の分類のポイントは、「ラグジュアリーが先か?それともスポーツが先か?」という視点です。

ラグジュアリーブランドが作るスポーツウォッチ

①「ロレアート」と④「ロイヤルオーク」は、いずれもラグジュアリーブランドが手掛けたスポーツウォッチに分類されます。

本来、ジラール・ペルゴやオーデマ・ピゲといったラグジュアリーブランドは、王族や貴族といった限られた顧客に向けて時計を製作してきました。これらの時計は、単なる時間を知るための道具ではなく、身に着ける芸術品としての役割を担っていたのです。貴金属製のケースを用いたオーダーメイドの時計が主流であり、一般市場向けの量産品とは一線を画していました。

そのような背景から、ラグジュアリーブランドの時計製造において最も重要視されていたのは、時間の正確さや耐久性といった実用性だけではなく、「美しさ」でした。ケースやブレスレットの造形美、丁寧に施されたポリッシュとサテン仕上げのコントラスト、そして文字盤の精緻な装飾など、外装の完成度はもちろんのこと、ムーブメントに施されるコート・ド・ジュネーブやペルラージュといった装飾技法に代表される内部機構の美しさまでもが重視されてきました。

こうした美意識を持つラグジュアリーブランドが、1970年代にスポーツウォッチという新たなジャンルへ挑戦したことで、「ラグジュアリースポーツウォッチ」という概念が誕生しました。ステンレススチールという当時としては革新的な素材を採用しながらも、従来のドレスウォッチに匹敵する仕上げとデザイン性を維持した点こそが、その最大の特徴です。

つまり、ラグジュアリーな美しさを起点に、日常使いに適したスポーティな機能性を融合させた時計こそが、本来の意味での「ラグスポ」と言えるでしょう。①「ロレアート」と④「ロイヤルオーク」は、まさにその象徴的存在であり、ラグジュアリーブランドの美学と革新性を体現したモデルとして、現在に至るまで高い評価を受け続けています。

スポーツウォッチがラグジュアリーになった時計

②「インヂュニア」、③「クロノマット」、そして⑤「デファイ スカイライン」は、いずれも“スポーツ”の要素を起点として誕生したモデルです。

まず、「インヂュニア」はIWCがエンジニアのために開発した時計であり、強い磁場の影響を受けやすい環境でも正確に時を刻むことを目的として設計されました。耐磁性能や堅牢なケース構造など、実用性を最優先に考えられた“タフな時計”として知られています。

次に、「クロノマット」はブライトリングが空軍パイロットのために開発したモデルです。過酷な飛行環境下でも高い視認性と操作性を確保することを目的としており、回転ベゼルや堅牢なケース設計など、プロフェッショナルユースに応える機能を備えています。まさに、航空分野における実用性を体現したスポーツウォッチと言えるでしょう。

さらに、「デファイ スカイライン」はゼニスの「デファイ」コレクションに属するモデルです。このシリーズは、ダイバーズウォッチをはじめとした堅牢でスポーティな時計を多く展開してきた歴史を持ち、耐久性や実用性を重視した設計が特徴です。その流れを受け継ぎながら、「デファイ スカイライン」は現代的なデザインと高級感を融合させたモデルとして位置付けられています。

これらのモデルに共通しているのは、「スポーツウォッチ」としての実用性を出発点としている点です。そして近年の加工技術や仕上げ技術の飛躍的な向上により、堅牢さや機能性に加えて、ラグジュアリーな外観や精緻な仕上げが実現されました。その結果、従来は実用性を重視していたスポーツウォッチが、高級時計としての魅力を併せ持つようになり、新たな“ラグスポ”のカテゴリーとして認識されるようになっています。

世間に浸透するのが早かった理由は?

「ラグスポブーム」が到来する以前、時計業界では「デカ厚ブーム」と呼ばれるトレンドが主流でした。大きく厚みのあるケースは腕元で強い存在感を放ち、その力強いデザインが“男らしさ”や“ステータス”を象徴するものとして、多くの時計愛好家から支持を集めていました。

しかし、このデカ厚ブームは、見た目のインパクトやデザイン性が優先される一方で、必ずしも着用感に優れていたわけではありません。重量や厚みによる装着時のストレス、シャツの袖口への干渉など、日常使いにおける実用性の面では課題を抱えるモデルも少なくなかったのです。

こうした流れの中で台頭してきたのが「ラグジュアリースポーツウォッチ(ラグスポ)」でした。ラグスポブームの広まりは、その洗練されたデザインだけでなく、優れた着用感が高く評価されたことに大きな要因があります。ケースとブレスレットが一体化したデザインや、人間工学に基づいた設計により、腕へのフィット感が向上し、長時間の着用でも快適に過ごせる点が、多くのユーザーの支持を得ました。

さらに、このトレンドの転換を後押ししたのが、時計製造における技術革新です。加工技術の進歩により、従来は大きく作られていた部品を小型化することが可能となり、ムーブメントの薄型化が実現しました。それに伴い、薄型でありながらも耐久性や信頼性を兼ね備えた時計が増え、安心してスリムなモデルを選べるようになったことは大きな変化と言えるでしょう。

また、これまで比較的注目されることの少なかったブレスレットにも革新がもたらされました。コマ一つひとつの仕上げや可動性、重量バランスにまで配慮することで、ケース単体ではなく“時計全体の外装”としての完成度が追求されるようになったのです。このようなアプローチにより、デザイン性と快適な装着感を両立した時計が増え、自然と「使いやすい時計」へと市場のニーズがシフトしていきました。

【ジラール・ぺルゴ】ロレアート 38㎜ セージグリーン

1970年代に誕生したラグジュアリースポーツウォッチ、通称【ラグスポ】。その多くは、日常使いとエレガンスを両立する絶妙なバランスから、39mm前後のサイズが主流でした。

誕生から約50年の時を経て、再び注目を集めているのが、ジラール・ペルゴの「ロレアート 38mm」です。中でもセージグリーンの文字盤は、銀色にも濃い緑にも見える繊細な中間色で、セージの葉を思わせる落ち着きと信頼感を腕元にもたらします。

さらに、シースルーバックから眺めるムーブメントには、細やかなペルラージュ仕上げが施され、ゴールド製ローターとともにラグジュアリーブランドならではの美しさを堪能できます。加えて、「世界一の着用感」とも称されるブレスレットは、滑らかな装着感を実現し、外装の完成度の高さを物語っています。

「ロレアート 38mm」は、デザイン・仕上げ・着用感のすべてにおいて、高級ブランドが手掛けるスポーツウォッチの名にふさわしい一本です。

【IWC】インヂュニア・オートマティック 40

その名の通り、「インヂュニア」は強い磁場にさらされる環境でも安心して使用できることを目指して誕生したモデルです。IWCは新たなデザインを求め、「ロイヤルオーク」の生みの親であるジェラルド・ジェンタに意匠を依頼しました。

その後、幾度かのモデルチェンジを経て独自の進化を遂げましたが、最新作ではジェンタによるオリジナルデザインを再解釈し、原点回帰ともいえる姿を取り戻しています。耐磁性能に加え、約120時間のパワーリザーブや向上した着用感を備え、実用性も大きく進化しました。

さらに、最新のレーザー技術によって加工された複雑な文字盤は、光の加減で豊かな表情を生み出し、伝統にとらわれず進化を続けるIWCの姿勢を象徴しています。

【ゼニス】デファイ スカイライン

「デファイ スカイライン」は、新時代のゼニスを象徴する一本です。
“自らの星を掴む人のための時計”というコンセプトのもと、未来へ挑む意志を体現しています。

大胆なシルエットでありながら、デザインはブランドのルーツにしっかりと根ざしています。初期デファイの八角形ケースを再解釈し、ファセットカットのベゼルと一体感のあるフォルムを採用。ブルーのサンバーストダイヤルには、ゼニスの象徴である星をモチーフとしたパターンがあしらわれ、光の中で豊かな表情を見せます。

ムーブメントには、1/10秒表示を可能にする高振動自動巻きを搭載。10秒で1周する秒針は、ゼニスが誇る36,000振動の精度を視覚的にも楽しませてくれます。

さらに、クイックストラップチェンジ機構により、ブレスレットとラバーストラップの交換も容易。スポーティーにもドレッシーにも使い分けができ、オンオフ問わず活躍する万能な一本に仕上がっています。

【ベル&ロス】BR-X5 ICE BLUE STEEL

航空機から着想を得たデザインで、「四角に丸を共存させる」独自のビジュアルを確立した「BR 05」。
その世界観をさらに進化させた次世代モデルが、「BR-X5」です。

モデル最大の特徴は、スイスのムーブメントメーカーケニッシと共同開発したキャリバー「BR-CAL.323」を搭載している点です。28,800振動/時、約70時間のパワーリザーブを誇り、さらにCOSC認定クロノメーターを取得。ベル&ロスとして初となる高精度機構が、信頼性を大きく高めています。

外装にも革新的な構造が採用されています。ケースはマルチレイヤー構造となっており、正面からは控えめながら、側面から見ることでその立体的な造形が際立ちます。中央のケースは削り出しによって成形され、耐久性を確保しながら軽量化も実現。4本のビスでしっかりと密閉された構造は、機能美そのものです。

また、ダイヤルデザインにも特徴があります。3時位置の大型デイト表示に加え、9時位置には3分割されたパワーリザーブインジケーターを配置。視認性と操作性を高めると同時に、独自の個性を演出しています。

まとめ

ラグジュアリースポーツウォッチ、いわゆる“ラグスポ”は、明確な定義を持たないからこそ、時代とともに進化し続けてきたジャンルです。

1972年にオーデマ・ピゲが生み出した「ロイヤルオーク」を起点に、ラグジュアリーを基軸としたスポーツウォッチという新たな価値観が誕生しました。一方で、「インヂュニア」や「クロノマット」のように、実用性を追求したスポーツウォッチが進化し、高級感を纏うことでラグスポと呼ばれるようになった流れも存在します。

さらに、「ロレアート 38mm」のように本来のラグジュアリー性を体現するモデルから、「デファイ スカイライン」や「BR-X5」のような最新技術を取り入れたモデルまで、その幅は大きく広がっています。

デカ厚ブームからラグスポブームへの移行は、単なるトレンドの変化ではなく、着用感の向上や技術革新、そしてユーザーの価値観の変化による必然的な進化でした。薄型化やブレスレットの改良、仕上げ技術の向上によって、「快適に使える高級時計」という新たな基準が生まれたのです。

ラグスポとは、「ラグジュアリー」と「スポーツ」のどちらが起点であっても成立する、非常に自由度の高いカテゴリーです。だからこそ、自分が何を重視するのか——美しさなのか、機能性なのか、あるいはその両立なのか——によって選び方も大きく変わります。

今後も技術の進化とともに、その境界はさらに曖昧になり、新たな名作が生まれていくことでしょう。ラグスポは、時計業界の“今”と“これから”を映し出す、最も魅力的なジャンルの一つと言えるのではないでしょうか。