なぜ高級時計は「ネット」より「お店」で選ばれる?時計専門店スタッフが考える“納得感”の正体

皆様こんにちは。
いつもoomiya京都店のブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

突然ですが、皆様に一つ質問です。

「時計はどこで買いますか?」

実際に時計店やブランドブティックへ足を運んで購入する方もいれば、オンラインストアで商品を比較して、そのまま購入する方もいらっしゃると思います。
今では、スマートフォンひとつで洋服や家電、日用品など、さまざまなものを購入できる時代です。

では、時計も同じように「オンラインで買うもの」になっているのでしょうか?
実は、時計業界のデータを見てみると、少し意外な結果が見えてきます。

今回は、時計専門店で働く私たちが日々お客様と接する中で感じていることを、「時計の購入場所」と「実店舗で時計を選ぶ意味」という視点から考えてみたいと思います。

ネットショッピングが当たり前になった今、時計の購入方法は?

近年では、ネットショッピングを利用したことがない方のほうが珍しいのではないでしょうか。

欲しい商品を検索して、価格を比較して、口コミを確認。
そしてスマートフォンで注文すれば、自宅まで商品が届きます。
重たい荷物を持って帰る必要もなく、営業時間を気にする必要もありません。

改めて考えると、本当に便利な時代になりました。

少し前までは、カタログを見ながら電話で商品を注文することもありましたが、今では商品を探すところから購入まで、スマートフォン一つで完結します。

企業側もオンラインストアを充実させるようになり、時計業界でもブランド公式オンラインストアやECサイトなど、時計を購入できる環境が整っています。

そう考えると、

「時計もオンラインで買う人が増えているのでは?」

と思いますよね。

ところが、時計業界の調査を見ると、興味深い結果があります。

オンライン時代でも、時計は「実店舗」で選ばれている

Deloitteが2025年に発表した「Swiss Watch Industry Study 2025」では、スイス時計の主要市場を含む6,500人の消費者を対象に、時計の購入行動などについて調査しています。

その調査によると、60%を超える消費者が時計の購入先として実店舗を選好しています。

一方で、オンライン購入を選好する人は30%でした。
つまり、オンラインショッピングが当たり前になった現在でも、

時計に関しては「実際にお店へ行って購入したい」という人が依然として多い

ということです。

さらに面白いのが、

「なぜ実店舗で時計を購入するのか?」

という理由です。

調査では、

「実際に時計を試着・体験できること」……51%

そして、

「販売員との対面でのコミュニケーションやアドバイス」……44%

が大きな理由として挙げられています。

これは、私たち時計販売スタッフにとっても非常に納得できる結果です。
なぜなら、時計は「スペックを見るだけ」では分からないことが非常に多い商品だからです。

日本では「実店舗で時計を選びたい」人がさらに多い?

では、日本ではどうでしょうか。

Deloitteの2023年調査では、日本の消費者の68%が、時計を購入する際に実店舗を最も好むという結果が出ています。
時計を購入する場所として、実店舗が大きな存在感を持っていることが分かります。
さらに世界全体の調査でも、実店舗を選ぶ理由として、

「実際に時計を触ったり、試着したりできる」

ことが大きなポイントになっています。

つまり、

時計は「見て買う商品」から「体験して買う商品」でもある

ということではないでしょうか。
ここからは、私たちが日々お客様と接する中で感じる「時計店で時計を見る意味」について、もう少し掘り下げてみたいと思います。

「40mm」と書いてあっても、腕に乗せるまで分からない

例えば、オンラインストアで時計を探しているとします。

商品ページには、

「ケースサイズ40mm」

と書かれています。
もちろん、これだけでも時計の大きさをある程度想像することはできます。

しかし、

「自分の腕に乗せたら、どのくらいの大きさに見えるのか?」

となると、話は変わってきます。

同じ40mmの時計でも、ケースの形状やラグの長さ、ベゼルのデザイン、文字盤の色などによって、腕に乗せたときの印象は大きく変わります。

さらに、

「思っていたより厚い」
「意外と軽い」
「この文字盤、実物の方がきれい」
「このブレスレット、着け心地が良い」

など、実際に触れてみて初めて分かることもあります。
これは時計選びにおいて非常に重要なポイントです。

写真では分からない「自分に似合うかどうか」

時計を購入するとき、

「この時計、かっこいいな。」

と思うことはあっても、

「自分が着けたらどう見えるのか?」

までは、写真だけではなかなか分かりません。

例えば同じモデルでも、腕の太さや手首の形によって印象は変わります。

スーツに合わせたとき。
休日のカジュアルな服装に合わせたとき。
シャツの袖から時計が見えたとき。
車のハンドルを握っているとき。

こうした日常のシーンまで想像すると、

「写真で見ると好き」と「実際に自分が着けて好き」は、必ずしも同じではありません。

だからこそ、

「試着する」

という行為に意味があります。

「最初に欲しかった時計」と「最後に選んだ時計」が違う?

時計店では、こんなことがよくあります。

「今日はこの時計を見に来ました。」

最初は、そのモデルを見るためにご来店されます。

ところが、実際に試着してみると、

「こっちのサイズも良いですね。」
「この色も気になります。」
「せっかくなので、こちらも着けてみます。」

と、少しずつ選択肢が増えていきます。
そして最終的に、

最初は候補に入っていなかった時計を購入される。

これは決して珍しいことではありません。

例えば、

40mmを探していたけれど、38mmを着けてみたらこちらの方がしっくりきた。
黒文字盤を探していたけれど、実際にブルー文字盤を着けてみたらこちらの方が腕に映えた。
クロノグラフを探していたけれど、シンプルな3針モデルの方が普段の服装に合わせやすかった。

こうした「予定外の出会い」があるのも、実店舗で時計を選ぶ楽しさの一つです。

オンラインでは出会いにくい「知らなかった選択肢」

オンラインショッピングには大きなメリットがあります。
検索条件を設定すれば、自分が欲しい商品を効率的に探すことができます。

「40mm」
「ブルー文字盤」
「クロノグラフ」
「ステンレススティール」

など、自分の希望を入力すれば、条件に近い商品を見つけることができます。

これは非常に便利です。
しかし、その一方で、

「自分が最初から知らなかった時計」に出会う機会は少なくなります。

例えば、販売員から、

「こちらのモデルもお好みに近いかもしれません。」

と提案された時計を試着してみる。

「今まで考えていなかったけど、これも良いな。」

そんな新しい発見が生まれることがあります。
これは、実店舗ならではの体験と言えるでしょう。

時計選びで大切なのは「正解」より「納得感」

時計には、絶対的な正解がありません。
ある人にとって最高の時計が、別の人にとってはそれほど魅力的ではないこともあります。

デザインを重視する人。
ブランドの歴史を重視する人。
ムーブメントを重視する人。
サイズ感を重視する人。
仕事で使いやすいことを重視する人。
休日のファッションとの相性を重視する人。

人それぞれ、時計に求めるものは違います。

だからこそ時計選びは面白いのだと思います。

「誰かにとっての最高」が、別の誰かにとっては平凡。

これも時計の面白さではないでしょうか。

だから私たちは、

「正解の時計を選ぶ」のではなく、「自分が納得できる時計を選ぶ」

ことが大切だと考えています。

「時計を買う」と「時計を選ぶ」は少し違う

ここで、私たちが考える「オンライン」と「実店舗」の大きな違いがあります。

それは、

「時計を買う」ことと「時計を選ぶ」ことは少し違う

ということです。

すでに購入するモデルが決まっていて、
「この時計を買う」
と明確になっているのであれば、オンラインストアは非常に便利です。
わざわざ店舗へ行く必要もなく、スムーズに購入できます。

一方で、

「自分にはどんな時計が似合うのか?」
「40mmと38mmならどちらがいいのか?」
「仕事と休日の両方で使えるのはどれか?」
「せっかく買うなら長く使える時計が欲しい。」

と考えているのであれば、実際に時計を見て、触れて、試着して、比較する時間には大きな意味があります。

つまり、

オンラインと実店舗、どちらが優れているという話ではありません。
大切なのは、「自分が今、時計選びのどの段階にいるのか」なのだと思います。

時計を選ぶ時間も、思い出になる

高級時計は、決して安い買い物ではありません。

だからこそ、「なんとなくこれを買った。」
ではなく、

「いろいろ悩んだけれど、最後はこれに決めた。」と思えることが大切なのではないでしょうか。

時計を購入した後、

「この時計にして良かった。」

と思える。

さらに何年か経った後でも、

「あのとき、いろいろ試着して悩んだな。」

と思い出せる。

そんな時間まで含めて、その時計が「自分だけの一本」になっていくのだと思います。
時計は時間を確認するための道具です。
しかし、高級時計の場合はそれだけではありません。

購入した日のこと。
初めて腕に着けたときのこと。
どのモデルにするか悩んだ時間。
一緒に選んでくれた家族やパートナーとの会話。

そうした思い出まで含めて、時計は特別な存在になっていくのではないでしょうか。

私たちが「試着」を大切にする理由

時計店で働いていると、

「ネットで見ていて、この時計が気になっていました。」

というお客様が多くいらっしゃいます。
もちろん、まずはその時計をご覧いただきます。

しかし、せっかく実店舗まで足を運んでいただいたのであれば、

「せっかくなので、こちらも着けてみませんか?」

と別のモデルをご提案することがあります。

これは、単純に別の商品をおすすめしたいからではありません。

実際に着けてみなければ分からないことがあるからです。

写真では分からなかったケースの厚み。
数字では分からなかったサイズ感。
光の当たり方によって変わる文字盤の表情。
腕に巻いたときのブレスレットのフィット感。

そして鏡で見たときの、「あ、これ似合うかも。」という感覚。

こうしたものは、実際に時計を着けることで初めて分かります。

「これを見に来た」から「これに出会えた」へ

私たちが時計店でお客様とお話しするとき、大切にしていることがあります。

それは、

「最初から答えを決めつけないこと」

です。

もちろん、お目当てのモデルがあれば、まずはそれをご覧いただきます。
ただ、そこから少しだけ視野を広げてみる。

サイズを変えてみる。
文字盤の色を変えてみる。
ブレスレットとストラップを比較してみる。
別のコレクションを試してみる。

そうすることで、

「自分では考えていなかったけど、こっちの方が好きかもしれない。」

という発見が生まれることがあります。

そして最終的に、

「いろいろ見たけれど、やっぱり最初の時計が一番好き。」

となることもあります。

それも、もちろん大正解です。
なぜなら、一度いろいろな時計を見た上で、

「やっぱりこれが好き」

と納得できたからです。

最後に

今回は、

「時計はネットで買う?それともお店で買う?」

というテーマから、実店舗で時計を選ぶ意味について考えてみました。

オンラインショッピングが当たり前になった現在でも、時計は実店舗での購入が多く、Deloitteの調査でも「試着・体験」や「販売員とのコミュニケーション」が実店舗を選ぶ大きな理由となっています。

私たちも、日々お客様とお話しする中で、その重要性を感じています。

時計は、写真だけでは分からないことがあります。

数字だけでは分からないことがあります。

そして、自分一人で探しているだけでは気づけないこともあります。

だからこそ、

見る。
触る。
着ける。
比べる。
相談する。

この時間そのものが、時計選びの楽しさなのかもしれません。

「最初はこれだと思っていたけれど、実際に着けてみたら違った。」

そんな経験をするのも、時計選びの醍醐味です。

そして最後に、

「いろいろ悩んだけれど、やっぱりこの時計にして良かった。」

と思える一本に出会えたなら、それこそが、その人にとっての「最高の時計」なのではないでしょうか。

私たち時計販売スタッフが大切にしているのも、まさにそこです。

時計を「売る」のではなく、

お客様が「この時計を選んで良かった」と思えるところまで、一緒に悩む。

それも、時計専門店で時計を見る楽しさの一つだと思っています。

次に時計を探される際は、ぜひ「どこで買うか」だけではなく、

「どんな時間をかけて、その時計を選びたいのか」

という視点でも、時計選びを楽しんでみてはいかがでしょうか。