クラシックかスポーツか。IWCかゼニスか。あなたを象徴する時計はどちらがふさわしい?

皆様こんにちは。
いつもoomiya京都店のブログをご覧いただき誠にありがとうございます。

我々の業界では時計の人気ランキングで「クロノグラフ」がほとんど1位で不動です。
名の知れた時計を思い返して書き出してみると、クロノグラフの割合が意外と多いと思います。

さて今回はoomiya京都店で取り扱いのあるブランドの中でも屈指の人気を誇る【IWC】と【ゼニス】から1本ずつピックアップして比べて見ようと思います。
同じクロノグラフというジャンルですが全く性格の違う2本。
機械式時計の面白さを伝えられるように頑張りたいと思います。

今回比較するのはこちら

【IWC】からポルトギーゼ・クロノグラフ。
最近専用の金属製ブレスレットが登場。
誰もが知るクラシックウォッチの金字塔。

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ポルトギーゼ・クロノグラフ
品番:IW371617
価格:\1,452,000-(税込)
ムーブメント:自動巻きクロノグラフ(IWC自社製キャリバー69355)
ケース素材:ステンレススティール
ベルト:ステンレススティール
防水:3気圧防水
ケースサイズ:41mm
その他特徴:パワーリザーブ約46時間

【ゼニス】からはクロノマスタースポーツ。
発表当時から入手困難が続いた時計。
名機エルプリメロを進化させて搭載。

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クロノマスタースポーツ
品番:03.3100.3600/69.M3100
価格:\1,592,800-(税込)
ムーブメント:自動巻きクロノグラフ(エル・プリメロ3600)
ケース素材:ステンレススチール/セラミックベゼル
ベルト:ステンレススチール
防水:10気圧防水
ケースサイズ:41mm
その他特徴:パワーリザーブ約60時間

全体像を見てみると

クラシックスポーツか。
この問題は時計のみならず、あらゆる身の回りで議論になります。
まさに対極。
車でも服装でも時計でも時代が変われば評価は逆転し、常にトレンドを追う各メーカー。
その中で確かにぶれないクラシックを追求し完成させた「ポルトギーゼ・クロノグラフ」
クロノグラフと言えば「ゼニス」と言われるほど名声を得た名機エルプリメロ搭載の「クロノマスタースポーツ」

クロノグラフは時間を測定するもの。
そもそもクロノグラフは「クロノス(時間)」+「グラフォス(記録する)」の造語から出来ています。
クラシックかつエレガントなポルトギーゼ最大の特徴はベゼルがないことです。
ベゼルがある時計の代表はダイバーズウォッチなどが有名です。
ベゼルにはタキメーターやパルスメーターなどその人が使う環境に応じてベゼルに刻みが入ります。
そういう意味合いではクロノマスタースポーツはまさに王道と言えます。

インデックスと針を見るだけでここまで違う

正面から見ると「アラビア数字」のインデックスと「リーフ針」が目を惹くクラシカルな見た目です。
このディティールは初代ポルトーギーゼから続くアイコンと言えます。
腕にのせて針が進む様子を眺めていると静かな時間を確かに感じます。
これが大人の余裕なのかなと思ってみたり、引き込まれるその美しくも儚い針の動きは時間を忘れさせることで逆に時間を認知させる。そんな時計です。

心穏やかに時計を見る。だからこそスポーツウォッチに通常採用されるインデックスは、視認性が高く一目で情報を読み取ることが出来る「バーインデックス」を選択します。
IWCが素晴らしいのはクロノグラフ=スポーツウォッチという業界の方程式に乗らなかった事。
スポーツウォッチを製作する時に多くのブランドの開発責任者はそのスポーツをしている人に意見を求めます。
使用感や視認性などプロでなければ分からない問題が多いからです。
「ポルトギーゼ・クロノグラフ」のデザイナーは【数学者】です。
黄金比を用いて作図されたこの時計は誰が見ても美しいと直感的に認識する美しさです。
そんな繊細な時計に無骨な印象を与えるのではなく、繊細さを重ね合わせるドットインデックス+アラビア数字。
ありそうでなかった縦二つ目のインカウンター配置。
どこを切り取っても機械式時計を象徴するアウトラインです。

一方で「クロノマスタースポーツ」は王道と言える作り。
スポーツウォッチならではの視認性を最大化する作りは実は意外と難しいと言われています。
視認性を高める工夫の一つに針を太くします。
一見シンプルな解決方法ですがデメリットがあまりにも大きいのです。
それは「見た目の高級感」と「針が重たくなる」の2つです。
ポルトギーゼと同様に高級感は繊細さが求められます。
しかし夜間の視認性まで考慮すると、蓄光塗料を塗る為に針に幅を持たせる必要があります。
この問題点を解決するために各ブランドは多くの努力をしています。
ゼニスのアプローチは夜光塗料の周りをポリッシュ仕上にし、光を反射させることで夜光塗料を目立たせる手法です。
針を見ると白い部分がメインとなることで、よりシャープに見えるように改善されています。
これは「クロノマスター オリジナル」を見ると明らかに意識されて作られています。

「針が重たくなる」デメリットは数多く、針を動かす力が大きくなることでパワーリザーブの低下するによる精度不良はスポーツウォッチには致命的な弱点です。
しかしスペックをよくよく見るとパワーリザーブはポルトギーゼ・クロノグラフを上回っています。
この点はムーブメントの章で詳しく解説します。

この章最後にどちらも素晴らしい時計だなと感じるのは針が奥まで届いている所。
針が奥まで届くと視認性が上がりますが、その分先の方は重力の影響でたわんでしまいます。
そうすると針の付け根の取り付け部分が重要になりますが、針と針の隙間(クリアランス)がどちらも狭くなっています。
針は文字盤側から押し込んで付けますが押し込みすぎると動きが悪くなり、緩いと衝撃で外れてしまいます。
実はこのようなディティールを実現できる両社は素晴らしい技術を持っています。

文字盤の発色方法があり方を決めている

ここ数年で時計業界が進化した過程には技術力の向上が挙げられています。
特に文字盤を含む外装と言われている部分の進化はまさに日進月歩。
先に文字盤の進化の歴史を簡単に振り返りたいと思います。
大きく分けて文字盤の造りには2つの色の付け方があります。
①メッキ加工
②ラッカー加工
1800年代まで振り返ると時計は庶民の物ではなく貴族や王族がオーダーメイドで作るものとされていました。
そこで使われていた文字盤はグランフーに代表されるエナメル文字盤です。
現在の技術をもってしてでも雲上ブランドやそれに準拠するブランドしか作製出来ない希少な文字盤。
歩止め率が悪く大量生産に向かない文字盤は一般庶民相手の商売ではとても受け入れられませんでした。
エナメル文字盤は顔料次第で様々な色を作ることが出来た為、オーダーメイドにはうってつけですが高価過ぎました。
やがて時計業界は産業革命や第一次世界大戦など多くの転換期を経て、量産化へと舵を切ります。
そこで開発されたのが真鍮の文字盤に「メッキ加工」「ラッカー加工」を施す手法です。

近年では文字盤に凹凸などの模様が入ったり、カラーバリエーションが豊富になりましたが、最初に選べた色は多くありませんでした。
メッキ加工の場合は「シルバー」or「ブルー」、ラッカー加工の場合は「ブラック」or「ホワイト」。
メッキ加工と比較するとラッカー加工は厚みが増すデメリットがありました。
それゆえにラッカー加工は薄い時計との相性が悪く、ダイバーズウォッチなどで主に使用されています。
メッキ加工は「ブラック」「ホワイト」が作れないため、カラーバリエーションが少なく、色むらが出来る事や同時期に作られていても色が微妙に違うなどの問題もありました。
この磁気にサーモンピンク文字盤などを出せたのはそれこそ雲上ブランドのみという時代を経て現在私たちは文字盤の色を選べるわけです。
その証拠にビンテージの時計などを見ている方はそのカラーバリエーションが少ないことに気が付くはずです。

さて話を元に戻します。
「ポルトギーゼ・クロノグラフ」の文字盤は「メッキ加工」。
「クロノマスタースポーツ」の文字盤は「ラッカー加工」です。

クラシカルな時計であるポルトギーゼ・クロノグラフには文字盤をより薄く加工出来るメッキ加工を採用したのは当然だと感じます。
メッキ加工には文字盤の下地に施した凹凸などの溝をそのまま残すことが出来るというメリットがあります。
ゆえにラッカー加工のポルトギーゼ・クロノグラフと比較するとクラシカルな艶めきがあると思いませんか?

クロノマスタースポーツのラッカー加工は近年の時計製作の最たる例でもあります。
ラッカー加工が厚みを増してしまうというデメリットを克服し薄い文字盤を作ることが出来ました。
厚みは日付窓を確認すると分かりやすいのではないでしょうか?
艶はありながらインダイヤルえお主張させ、ベゼルとの白黒コントラストが美しい。
まさに白文字盤の究極系と言えます。

今回はここまで

いかがでしょうか。
同じクロノグラフでも全く違うアプローチの両者。
しかしながらこの両者、面白いのは次の章でお話しする、ムーブメントや歴史の比較なんです。
見た目明けで選ぶのであればここまででも大丈夫ですが、時計の奥深さはここからが面白い。
是非ご覧ください!