【グラスヒュッテ・オリジナル】を愛してやまない内田が語る「パノリザーブ」の魅力とは?~ムーブメント編~Vol.3

皆様こんにちは。
内田が語るシリーズも第三弾となりました。
ありがたいことに続編を楽しみにしていただいているお客様も多く、嬉しい限りです。



第一弾、第二弾はもうご覧くださいましたか?
下にリンク貼っておきますので、ぜひご覧くださいね!

【↓第一弾↓】

【↓第二弾↓】

では、前回に引き続き「作り込み」の部分でグラスヒュッテオリジナルならではの特徴や凄い!と感じるところを皆様に紹介していきます。

チラネジ

テンプをよく見ると小さなネジがセットされています。これをチラネジと言います。

【チラネジの仕組み】

  • チラネジを 締めたり緩めたり することで、テンプの回転慣性を変え、振動数や歩度(精度)を調整できる仕組みです。

ネジを締める(内側へ)とテンプが軽くなり振動が速くなる → 時計は進む。
ネジを緩める(外側へ)とテンプが重くなり振動が遅くなる → 時計は遅れる。


 

チラネジ式テンプの特徴】

  • 精度を高められる:非常に細かい調整が可能。
  • 温度補正機能を持つ場合も:昔は温度変化による金属膨張を打ち消して精度を安定させていた。
  • 高級感・伝統性:現在はフリースプラング式(ネジなしテンプ)が主流ですが、ランゲやパテックなど一部の高級ブランドは「伝統技法・審美性」を重んじてチラネジテンプを採用しています。

 

【根気のいるチラネジの取り付け作業】
小さなテンプにネジ穴(0.35㎜)をあけ、18個の微小なゴールドチラネジ(直径0.55㎜、重さ0.07g)を一人の職人が手作業でねじ込んでいきます。
万が一、作業中にテンプに傷をつけてしまうと時計の精度に影響が出てしまうので、慎重にネジを取り付けなければいけない非常に集中力と根気のいる作業です。


こうして完成したチラネジ付きテンプはとても美しく、なんだか特別感がありますよね。


 

上記のようにチラネジはもともと温度補正や精度調整として取り入れられていた技法なのですが、今は素材や加工技術も進歩しチラネジを取り付ける必要はなくなりました。
ですが、チラネジは伝統的な高級時計の象徴であり、ムーブメントの裏側から見ると美しい仕上げが感じられるため、今もファンに根強い人気があります。

ほとんどの高級時計ブランドがチラネジのないテンプを採用しているのにもかかわらず、こうして伝統を大切にしている姿勢がなんだかとても素敵だなと感じます。

ゴールドシャトン

【ゴールドシャトンってなに??】
上の写真に見える赤い石(人工ルビー)の縁に金色の丸い枠があります。この丸い金枠の部品を「ゴールドシャトン」と言い、これはルビーを固定するための小さなお椀型の受け皿になっています。
名前にもある通り、使っている素材はなんと18kゴールド製。製造に手間がかかり高コストになるので、ゴールドシャトンを採用しているブランドはほとんどありません。
18世紀から続くグラスヒュッテの地に根付く伝統技法の一種がゴールドシャトンとなります。


ゴールドシャトンの前に基礎知識として・・・・
【そもそも赤い石(人工ルビー)は何のためにあるのか?】

① 摩耗の防止(耐久性向上)
機械式ムーブメントは、歯車の軸が常に回転運動を行っています。この軸が金属の地板や受け板に直接触れていると、摩耗が早く進んでしまいます。
ルビーは非常に硬くて滑らかな素材(モース硬度9)なので、摩擦を減らし、長寿命化を実現します。

② 摩擦低減と精度維持
金属同士の接触よりも、ルビーとの接触の方が滑らかで摩擦が小さい。これにより動力伝達がスムーズになり、ムーブメントの精度や効率が向上します。

③ 潤滑油の保持
ルビーの穴(軸受け)には微小なくぼみがあり、オイルを保持しやすい構造になっています。長時間潤滑を保ち、機械の負担を減らします。

今では人工でルビーを作れますが、昔は作れなかったため、19世紀以前は天然のルビーが使われていました。
非常に高価だったため、“ルビー入りのムーブメント=高級品の証”とされており、精度向上のためだけでなく、貴族階級向けのステータスシンボルでもありました。


【ゴールドシャトンは何のためにあるのか?】
結論から申し上げると・・・“今となっては”絶対的に
必要なパーツではありません。特段必要なパーツではないため、現在のほとんどの高級時計には採用されていません。

どちらかというと、18世紀に当時に採用されたドイツ(主にグラスヒュッテの地)ならではの伝統技法になります。

①ルビーを安定させて精度と耐久性の向上
18世紀当時、天然ルビーを使っていたため加工がとても難しく、ルビーの形も大きさも均一ではありませんでした。受け(4分の3プレート)にルビーをはめ込むにはルビーの大きさと穴の大きさがピッタリ合わないといけません。
それを解決するために、お碗型のゴールドシャトンを穴にかませておくことで、ルビーをぴったりフィットさせることができます。
周囲に安定した台座により、ルビーのズレが起こりにくくなり、精度と耐久性が向上します 。

②ルビーの交換・整備のしやすさ
当時、天然ルビーが破損した場合にもゴールドシャトンごと取り上げて簡単に整備・交換できるメリットがあります。
今は人工ルビーなので破損するようなことは滅多にありません。

③装飾としての美しさ
ムーブメントの裏面などに見えるゴールドシャトン、赤いルビー、焼いて青色を出すブルースティールのネジのコントラストが、装飾的な輝きを与え、機械式時計としての芸術性を高めます 。


手彫りのエングレービング

グラスヒュッテ・オリジナル(Glashütte Original)の手彫りエングレービングは、美観と職人技の象徴で、特に裏側(ムーブメント側)で顕著に見られます。


ダブルスワンネックの下にある受けの部分に勾玉のような模様がいくつも見えるかと思います。この部分を完全手作業で彫っています。
彫りの模様はグラスヒュッテで栽培もしている「洋菊」がモチーフになっており、西洋では「気品・永遠、変わらぬ美しさ」のシンボルとして捉えられています。

工業的なレーザー彫刻が主流になっているなか、グラスヒュッテ・オリジナルでは一つ一つ職人がフリーハンドで彫るため、同じモデルでも微妙に表情が異なり唯一無二の時計になります。
下の画像は、「パノリザーブ」のエングレービング比較です。

こうして比べると模様の向きや配置、大きさが違うのが違いますよね。
エングレーバーはなんとたったの5人!!大量生産ができないのも納得です。

そして彫って終了ではなく、見た目の美しさと腐食を防ぐために彫刻後はガルバニック処理により金メッキされ、最後にロジウムコーティングが施されます。
手彫りのエングレービングだけでも圧巻ですが、さらに手作業でメッキ加工やコーティングを行っているのは今の時計業界でも珍しいです。

時計の文字盤側ならまだしも、自分しか眺めることのない時計の裏側のほんの一部分にこれだけの手間と時間を惜しみなくかけているところが真の高級時計らしさを感じられて、つくづく素敵だな、凄いなと感じます。


いかがでしょうか。
知れば知るほど、手が込んでいて他のブランドではなかなか見られない技法がギュッと詰まった時計だと思います。
つい語りたくなるような作り込みでありながら、価格は100万円台と相場価格よりかなり良心的な価格設定です。
物価が上昇している今の時代でもなお、オーバークオリティすぎて価格に見合っておらず、逆ぼったくりなんじゃないかと思えるほど本当にいい時計作りをしているなという印象です。

好きすぎるがゆえに気づけば第三弾(笑)
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
少しでもグラスヒュッテ・オリジナルに興味をもっていただけたら本望です。

投稿者:内田